第1章:忘れかけていた旅人の心
マテ茶との出会いを語る前に、話しておかなければならない原体験がある。
それは、僕が「植物の持つ人智を超えた力」を心から信じるようになった、南米アマゾンでの出来事だ。
当時、不動産会社の営業マンとして働いていた僕のもとに、友人の竜馬から突然連絡が入った。
「アマゾンにシャーマンの修行を受けに行こうよ」
南米は遠い。最低でも1か月間はかかる。あまりにも唐突で、非常識とも思える誘い。それなのに僕の心は即座に「行きたい」と反応した。
もともと僕は旅人だった。29歳の時にフィリピンへ語学留学。そこで出会った先生に一目惚れし、日本での生活をあっさり捨ててフィリピンへ移住した(その女性こそが今の妻であり、出会って11年経った今も愛妻家として知られる僕の原点だ)。
外国は面白い——そう知った僕は、バックパックひとつで世界一周の旅も経験した。
「行きたいと思ったらどこへでも行く」のが僕だったはず。
それなのに、その時は「行きたい。でも会社員の自分が1か月も休めるわけがない…」と反射的に諦めていた。
強烈な違和感だった。
「このまま行きたい場所に行けない人生なんか嫌だ。何か方法はないか?」
どんなに考えても答えはひとつだった。「自分が社長になる」。社長になれば、旅に行く時間やお金をつくるのも自分の実力次第。
こうして僕は独立を決意し、現在経営する不動産会社を設立した。
第2章:会社を成功させる裏ワザを求めて
不動産会社を始めるには「宅地建物取引業(宅建)」の免許が必要だ。申請から取得まで、会社設立後およそ2か月かかる。僕は、この「空白の2か月」を使ってアマゾンへ飛び立つことにした。
アマゾンの自然療法士(シャーマン)は、さまざまな植物を組み合わせて人々の身体や精神の病を癒やすという。病の本質は心にある——心を癒やせば身体も治るという彼らのアプローチに、僕は深い関心があった。さらに、実社会で生きる「知恵」を授かる人もいると聞き、新米社長の僕は「会社を成功させる裏ワザ」のようなものが手に入ることをひそかに期待していた。
アマゾンは広大で、9つの国にまたがり約350〜400の部族が存在する。その中でも古来のシャーマニズムを今に伝えるのが、ペルーのシピポ族だ。
近年、欧米人を中心にうつ病やトラウマ療養に効果的との評判が広がり、ネットで予約できる商業的なリトリート施設も増えている。しかし僕が求めていたのは、ネット予約などできない、スマホの電波すら届かない「本物のシャーマン修行」だった。
僕たちはペルー東部、ウカヤリ川沿いの街「プカルパ」へ向かい、現地で聞き込みをして本物のアマゾンのシャーマンを探すことにした。
第3章:この世のすべてを見た
ペルーは遠く、直行便はない。
バンクーバー、メキシコシティ、リマを経由し、それぞれの街に滞在しながら、1週間かけてプカルパに到着した。
現地で聞き込みを始めて驚いたのは、住民たちの心の清らかさだった。
これまで約40カ国を旅し、あらゆる人を見てきた。その経験と比べても、プカルパの人々は自分や他者を裏切るという概念すら持ち合わせていないかのように、あまりにも純粋に思えた。何より驚いたのは、それが誰にとっても当たり前だということだ。出会った誰もが、どこまでも澄み切った心で僕たちに接してくれた。
この街の男性のほとんどは、20代の頃に数日〜数週間シャーマン修行に行くという。あるトゥクトゥクのドライバーは、修行中に「この世のすべてを見た」と語ってくれた。
数日間の聞き込みの末、僕たちが向かうべき村が分かり、ボートに乗り込んだ。
第4章:本当にシャーマンに出会えるのだろうか
ウカヤリ川をボートで進む。
「ついにアマゾンに来たんだ」
「この先、本当にシャーマンに出会えるのだろうか…」
期待と不安が入り混じる独特の緊張感のなか、ボートは村の船着き場へと到着した。そこから村人たちに尋ね歩き、僕たちはついにシャーマンのもとへとたどり着く。
滞在先のリトリート施設には、電気がなかった。
貧しくて電気がないのではない。近くまで電線は来ているのに、「電気のない生活のほうが豊かだ」と知っている彼らは、あえて電気を引かない選択をしていた。世の中が目まぐるしく変わる中、昔ながらの文化が残るうちに来ることができた奇跡に、僕は心から感謝した。
そこで過ごした1週間。
- 水は井戸から汲み上げた地下水
- 食材は放し飼いの鶏や川魚を自分たちで捌いたもの
- テレビもスマホもないからこそ、溢れる会話と笑顔
シンプルだからこそ、毎日が人間本来の幸せに満ちていた。
第5章:強烈なデトックスと、植物がもたらす覚醒
結局、「会社を成功させる裏ワザ」
なんてものは手に入らなかった。
僕たちはこの場所に1週間滞在させていただき、シャーマンの儀式を3回体験した。
会社を辞めてでも、行った価値があった。何がそんなに良かったか、言葉にするのは難しい。いや、言葉なんかにするものでもないのかもしれない。
シピポ族のシャーマニズムでは、西洋医学のように「身体に何かを入れる」のではなく、「身体の悪いものをすべて出し切る」。彼らが行う強烈なデトックスの教えは、非常にシンプルで力強いものだった。
この一連の体験の中で、僕の心にはある圧倒的な感情が湧き上がっていた。
それは、「身近な人たちへの深い感謝」だった。
日本で待ってくれている妻を始めとした沢山の人、特に女性への感謝が猛烈に湧き上がってきたのを覚えている。
日常の「当たり前」がいかに尊いか。なぜその感情が溢れ出したのか、理由はわからない。ただ、感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、そんな気持ちにさせてくれた環境への感謝がまた湧いてくる。人間らしい幸せとは、こういうことなのかもしれないと感じた。
温かく迎えてくれた彼らに感謝を返したくて、僕は毎朝トイレを掃除し、ゴミを拾った。今でも日本で続けているゴミ拾いの習慣はここから始まったものだ。
結局、「会社を成功させる裏ワザ」なんてものは手に入らなかった。
ジャングルにいる間、そんな俗世の欲望は綺麗に忘れていた。
エピローグ:すべての原点へ
村からプカルパへ戻った僕と竜馬は、ボートでイキトスへ移動し、「カンボ」や「ラペ」といった自然療法も体験した。
南米アマゾンでの強烈な体験を経て、僕の中で「植物の持つ力」に対する疑いは完全に消え去った。
植物は、単なる栄養素やビタミンの補給源ではない。
時には人の意識やマインドまで変えてしまう、偉大な力を持っている——。
アマゾンを出た僕は、地球の裏側で、「マテ茶」という神秘の植物に出会うことになる。